【後編】バイオマスプラスチックは環境にやさしい? その効果・課題・今後の展望
この記事は全2回の後編です。前編ではバイオマスプラスチックの基礎知識、バイオマスプラスチックとの違いについて 解説しました。まだご覧でない方は、先にこちらをご一読ください。
⇒【前編はこちら】バイオマスプラスチックとは? 定義・種類・バイオプラスチックとの違いを徹底解説 https://film.koga-polymer.co.jp/column/column-4891/
前編では、バイオマスプラスチックの定義や分類、特徴についてご紹介しました。
では持続可能な素材として期待が高まるバイオマスプラスチックは、本当に“環境にやさしい”のでしょうか?
本編では「4つの環境課題」の観点から整理し、導入の課題や将来展望、企業に求められる取り組みまで掘り下げていきます。
◆環境問題4つの視点とバイオマスプラスチックの関係
プラスチックをめぐる環境課題は、大きく以下の4つに分類されます。
① 使い捨てプラスチックごみの増加
近年、海洋ゴミ問題やマイクロプラスチックによる生態系への影響が顕在化し、「ワンウェイ(使い捨て)プラスチック」を使用するライフスタイルが見直されつつあります。
この課題を根本的に解決するためにはリデュース(使用量削減)・リユース(再使用)・リサイクル(資源循環)といった3Rの徹底が不可欠です。基礎原料タイプのバイオマスプラスチックはこの点において石油由来プラスチックと本質的な違いはありません。バイオマスプラスチックを活用しながらリデュース、リユースを意識した製品設計をおこなう、リサイクルの仕組みを整えることで、課題解決に寄与することができます。ブレンドタイプについては、リデュースについてはプラスの効果がある反面、リサイクルについては混ぜものがされていることで再生プラスチックの品質低下の懸念があることから一長一短といえるでしょう。
② 石油資源の有限性
プラスチックの原料であるナフサは、石油を精製して得られる副産物です。石油は有限資源であり、将来的な枯渇や価格変動リスクを抱えています。
この点において、バイオマスを原料としたプラスチックは、再生可能資源を活用する手段として極めて有効です。特に基礎原料タイプは、石油依存を大幅に減らす可能性を秘めています。
③ CO₂排出と地球温暖化
石油由来のプラスチックを燃焼すると、地中から掘り出した炭素がCO₂として排出され、温暖化の要因になります。
バイオマスは、植物が成長過程でCO₂を吸収しているため、燃焼時に排出されるCO₂とのバランスが取れるという「カーボンニュートラル」という性質をもちます。(*1)ただし、栽培・加工・輸送時にもエネルギーを消費するためトータルの環境負荷を見極めることが求められます。さらに現在流通しているバイオマスプラはアメリカやブラジル等の海外製が主流ですが、長距離輸送による石油由来資源の使用及びCO₂排出量の増加だけでなく、土地利用変化(LUC)(*2)による温室効果ガス排出も問題視されています。
④ 生態系への悪影響
自然界に流出したプラスチックが、鳥や魚などの生物に悪影響を及ぼす事例が増えています。前編でも申し上げた通りバイオマスプラスチック=「生分解性がある」は間違いであり、非生分解性のバイオマスプラスチックだと流出した場合の影響は石油由来と変わりません。
環境中で分解される設計をもつ生分解性プラスチックを選定するか、流出しない回収・処理設計が不可欠です。さらにいうと生分解性プラスチックについても、意図せず自然界に流出しても分解されるという保険的な意味合いで採用することが望ましいとされています。あくまでも使用後の回収が前提となっておりますが、通常のプラスチックに生分解性素材が混入すると加水分解などによりリサイクル材の物性が低下し、リサイクルループ全体に悪影響を与えるおそれがあります。この点も慎重に検討すべき課題の1つです。
*1:「カーボンニュートラル」の概念が理論上は適用されますが、これはバイオマスの燃焼が「実質的にCO₂を増やさない」とされるものであり、栽培・製造・輸送にかかるエネルギーの影響を除外するものではありません。実際の環境評価ではLCAに基づく定量的な比較が不可欠です。
*2:例えば森林をサトウキビ畑に転換した場合、もともと炭素を吸収・固定していた森林が失われることで、むしろCO₂排出が増加する可能性があるため、原料調達のトレーサビリティが重要です。
◆バイオマスプラスチックの課題と導入ハードル
バイオマスプラスチックは持続可能な社会に向けた有効な手段である一方で、導入にはいくつかの課題があります。
● コストが高い
とくに基礎原料タイプは、製造設備や発酵・精製プロセスが複雑で、石油由来に比べて価格が数倍になるケースもあります。そのため、100%バイオマス原料ではなく一部を石油由来原料からバイオマス原料に置き換えることが主流です。かつ、期間限定品などの量があまりでない製品や高付加価値製品への導入が中心です。
● 安定供給への不安
石油由来原料と比較して圧倒的に供給量が少ないため、需要の急激な増加により安定した調達が難しくなるリスクがあります。そもそも植物由来原料は、気候や作況に左右されやすく、また、食料と競合する原料(サトウキビ・トウモロコシなど)の利用には慎重な判断が必要です。サトウキビに関しては砂糖を精製した後に残る糖蜜(モラセス)から作っており、直接的に食料とは競合しないものの、飼料・発酵原料などにも使われるため、バイオプラ需要の増加が間接的に農業・畜産分野へ影響を及ぼす可能性もあり、全体の需給バランスを見極めた導入が求められます。また他の作物から収益性の高いサトウキビへの転作が進み、結果として食品の供給量を減らすという懸念もございます。
● 成形性や物性の制約(特にブレンドタイプ)
混合する植物繊維の種類や量によって、従来のプラスチックに比べて強度や柔軟性が低下する場合があります。製品ごとにテストや適正な処方設計が求められます。またブレンドするバイオマスによっては成形機に影響を及ぼすものもあるため、その点についても考慮する必要がございます。
◆今後の展望と企業の取り組み
こうした課題がある中でも、企業の環境対応への姿勢は社会から厳しく問われています。
たとえば、ある食品メーカーはバイオPEを外装フィルムに採用し、CO₂削減目標を明示したパッケージ戦略を展開。また、竹や米ぬか由来のブレンドプラを使った商品開発といった取り組みも一部の消費財メーカーで見られ、「環境に配慮した製品」としてのブランド力強化が図られています。
今後は以下のような動きが加速すると予想されます:
• 素材メーカーとユーザー企業の共同開発
• 自治体や業界団体による認証制度の強化
• 国際的なサプライチェーン対応(Scope3)との整合性強化
◆当社の取り組みとご提案
バイオマスプラスチックは、環境への配慮と機能性を両立する次世代素材として注目されています。
ただし、その選択には「性能」「コスト」「バイオマス度」など、複数の視点からの比較検討が欠かせません。
当社では、用途や課題に応じた最適なフィルム素材のご提案が可能です。
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